ミヨシに入って1年目
前回のお話し 学生からミヨシに入るまで
入社した当初は、色々覚えて会社を発展させていこうと意気込んでいました。
しかし、入ってから感じたことは社内の人間関係の悪さと、リスクを冒してまで新しいことには挑戦しないという風潮でした。社内の雰囲気の悪さは改善するまでかなりの時間が必要でした。
人間関係については今回は深掘りせず、今回は入社一年目にやったことをお話ししていきます。
当時、金型職人は3人、成形職人が1人、試作職人が3人、事務が1人、営業が1人そしてシステム事業部が2名でした。
私より先に兄がミヨシに入社しておりシステム事業部を設立していました。本業と異なる事業ですが、父は兄弟で力を合わせて会社を発展させてほしいとの思いで兄が専門分野であるシステム事業部を作り、ものづくりとITで事業発展を目指していました。当時は兄がミヨシの社長に、私はサポートにと考えていたようですが、私が入社した翌年には兄はミヨシを去りシステム事業部は解体されました。
私が最初におぼえたのはフライス盤での切削加工でした。フライス盤の使い方は教わりましたが六面出し(すべての面を切削しすべての隣り合うすべての辺同士が直角)のコツは教わらず自分で考えて直角を出すように言われ、何個も失敗しながら1週間かけてのブロックを作成しました。バイスの動き、フライス盤の機構、色々考えて自分なりに答えを導き出しました。
狙った寸法でできあがり、しかも直角の出たアルミのブロックが出来上がった時はとても嬉しくて枕元に置いて寝ました。(今考えると危ないですよね)
フライス盤を使って6F加工ができるようになって最初に作ったのは治具でした。
作ったのは台車の取手を取り付ける台座、それと引き出しにしまうノギス固定治具でした。二つとも現場改善のもので、仕事としてお金になるようなものではありませんでした。
ノギス固定治具は引き出しの中のノギス同士がぶつからないようにするためのもので、樹脂を削って貼り合わせました。
ノギス置き場の固定治具 樹脂を貼り合わせた簡単なもの |
台座は台車の取手を持って動かすと、取手が外れてしまいそうだったため固定できるように製作したものでした。
台車取手の台座 フライス盤と手仕上げでアルミブロックからの削り出し |
売上にはならないものでも、社内環境を改善するものが作れたので、使ってもらっているのを見た時は達成感がありました。
当時作成したマシニング操作手順書 |
教わる時はメモを取り作業手順を箇条書きにして、後で自分用のマニュアルを作成して、マニュアル通りに機械操作をしてみて足りないところを足していきながら操作方法を覚えていきました。
先輩たちは自分たちの仕事があるので教える時間がないため、教えてもらうチャンスは一回しかないと思うと教わるほうも必死でした。この教え方だと、新入社員はついていけない感じていたため、自分の作ったマニュアルを次に入ってきた社員に渡して、少しでも仕事をおぼえる難しさを軽減していきました。
入社2か月目までは仕事を教えてもらえましたが、機械操作を一通り教わった3か月目になると社内で仕事を任されることもなく、何か手伝いましょうかと声掛けしても断られるようになります。
金型の加工は精度よく加工しなければならず、少しでも寸法精度が出ていない箇所があると1から作り直すことがあります。技術がない新人に任せ、一か所でも寸法許容外であれば、任せた側が作り直すなどしてリカバリーをします。リカバリーをする頃には納期も迫っており時間が無くなるため、二度手間になり納期遅延になるリスクを負うのであれば最初から新人に任せないという風潮がありました。
私は仕事をしたくても任されない期間が長かったため、誰かに仕事を任されるという事が物凄くありがたいことだと感じています。任されるという事は、ほんの少しかもしれませんが自分の技術を認めて仕事の出来栄えに関しても信頼されているという事ですから。
また、入社時に「技術は見て盗めと言われて」と言われていたため、近くで加工しているところを見て学ぼうとしましたが、実際に近くで見ていると「気が散るからあっちへ行け」と言われていました。
少し理不尽ですよね(笑)
本質は作業の手を止めて見るな、作業をしながら相手に悟られないように何をやっているか観察しろという事だと考えました。ただ、先輩の中にはうまく見られないように加工する人もいて、その先輩が帰ったあとにこっそり加工したものを手に取ってみて観察したりしていました。きちんと戻したつもりが置いている向きが変わっていたらしく、こっそり見ているのが発覚して勝手に触るなと怒られたこともありました。怒られましたが、その後もこっそり見てどういう風に作っているのか確認していました。
入社して3か月くらいが過ぎたところで、私は金型を作る技術を身に付けるよう指示され、出された課題がカバー形状の製品で押切がある上下型を1か月で1型作り上げることでした。
形はそれほど難しくないとはいえ、今考えてみればかなり無理な課題だなと思います。出来上がりには2か月要しましたが、その間にCAD、CAM、マシニング、ワイヤー放電加工、型彫放電加工の一通りの操作は覚えられました。
金型設計は今まで社内で作っていた金型を、どのような構造で作っていたのか観察して、見よう見まねで設計しました。
金型の部品図 加工後に測定した結果を記載 寸法精度は・・・ |
金型加工は、先輩たちが加工機を使っていないときにのみ加工させてもらえる条件で、合間に加工を進めていきました。金型が完成しいよいよ射出成形です。
成形材料はナイロンPA66で成形条件も職人さんから教わり自分で条件出しを行いました。
成形品はバリが出て、離型時にこすれが出て、磨きのだれが発生している成形品になりましたが、完成した時は凄く嬉しかったです。そして、失敗した部分に関しては原因と対策をまとめていました。
今見ると「これはやらないよね」と思わず笑ってしまうような内容も。当時は加工の仕方もわからず必死だったんでしょうね。そしてずいぶんざっくりした原因と対策ですね。
初めて金型を製作した時に分業をしない弊社の金型製作ではPDCAが非常に重要だときづきました。金型製作とPDCAの関係は以下の通りです。
P・・・金型設計
D・・・金型加工、射出成形
C・・・測定、形状確認
A・・・改善、課題抽出と対策
PDCAサイクルでなくても、失敗やミスに対してきちんと向き合い、見直すことは自分自身を成長させるためには必要不可欠です。むしろ気付いた時点で改善しないのはせっかくミスして気付いたのにもったいないですね。
ミスや失敗は誰にも気づかれないようすぐにでも埋めて隠して、無かったものにしてしまいたいものです。
しかし、隠したりごまかしたり、嘘をついて見えないようにすることは自分の成長につながらないどころか、周りの人にも悪い影響が及びます。
技術には嘘やごまかしがききません。どんなにうまくごまかせても、ごまかしたことは後で必ず白日にさらされます。自身の成長と公益性を考えるとものづくりに携わる技術者は誠実で正直に行動することが大切だと感じています。
少し話がそれましたが入社4か月後にはお客様に納める製品ではありませんが1型製作し、これで先輩たちから仕事を少しずつ任せてもらえると思っていました。しかし、先輩から仕事を手伝ってくれと言われることは殆どありませんでした。仕事がないときは成形の手伝いや職場内の整理整頓などをしていました。
そして2年目に入り、その時点でも先輩の手伝いは依頼されませんでしたが難しくない形状の製品を1人で1型製作する機会が増えてきました。仕事を任されなかった入社一年目に感じていた、会社での自分の存在意義に対しての不安が少しずつなくなっていった頃でした。
しかし、6月の終わりに会社にとって大きな変化が起こります。
金型課の課長が退職すると会社に告げ7月に退職しました。
社内で最も技術力が高い課長が辞めることで会社は新しい危機を迎えることになります。
つづく